2007年11月24日

「魔球」東野圭吾

『高校生活最後の暗転と永遠の純情を描いた青春推理。』

「魔球」というタイトルと、裏表紙の煽りのこの一文で、思わず手にとらされた。この頃はまだ東野圭吾の名前も知らなかった。

月曜日にやっているドラマ「ガリレオ」を子供が毎週見ていて、そういやこの原作者の本を母さん1冊だけ持ってるよ、とふってみたんだが全く興味を持ってもらえず、しかたなく自分で引っ張りだしてきて何年ぶりかで読みかえしてみた。
本自体そう多く読む方ではなかったし、そもそも推理小説を読むという習慣は全くなかったもので、私がこの人の本を持っているとういのはあくまで偶然に近い。
野球好きなので野球に関係する単語にひかれやすいというのと、あと実は青春ものに弱いという面もあって、あまり「推理小説」という点には重きを置いておらず、本当にたまたま手にとっただけだった。

今調べてみたら、もう20年も前の作品のようだ。私が読んだのはもうちょっと後だとは思うが。
実際には「青春推理」という言葉から受ける爽やかさ、みたいなものとは全くほど遠い作品ではあったのだが、でも確かに青春をかけた少年の話ではあった。
推理小説の感想というのは難しいなと、今書きながら痛感をしております。ネタばれはもちろんのこと話の構成の妙をばらして興をそぐのも無粋だし。もしその辺で漏らしちゃってる部分あったらごめんなさい。
舞台は昭和30年代。
つましく生きる親子。天才と呼ばれる少年の抱えていたもの。
とある会社の爆弾事件。
「魔球」というキーワード。
全く接点のない事件、話が繋がって全体が見えた時のカタルシスというのが推理小説の醍醐味でもあるのかな。普段この手のジャンルは読まないのでここらの上手さに感嘆してしまう。
話の最主要人物である少年は、一見「永遠の純情」という単語からはかけ離れたような人物像なのだが、その少年が全てをかけて守ろうとしたもの。
・・・あまり詳しく書くわけにはいかないが、「そうするしかなかった」少年の気持ちと存在が、とても痛く、悲しい。

「秘密」も「白夜行」も当然「探偵ガリレオ」も、この作者の他の作品は読んだ事がないので、それらと比べてどうなのか、また推理小説としてどうなのかという点も私には全くわからない。
「魔球」はとても泥臭さがある作品なのだが、これはこの人の作風なのだろうか。ドラマや映画の原作に多くなっていることからして他の作品はもっと洗練されているのかもしれない。
しかしこの泥臭さが、「魔球」という作品においてとても大事なように思う。
少年は頭の切れる子でもあったのだから、もっと違うやり方も選択できたのではないかと思う。でもそうせざるを得なかったのは、時代であったり貧しさであったり、底に流れている重さによるものなんだろう。そう思える。
ラベル:小説 作家
posted by シノブ at 15:39| Comment(5) | TrackBack(1) | その他好きなもの | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
へぇ…ガリレオって東野圭吾原作なのね。
私が原作者ならあんな月9には映像化の権利渡さないけどな〜。

関係ないけど柳美里とサイバラの不幸自慢本がでるらしく、それに伴って柳美里のサイトや著作を見た。
(著作は病院での閲覧)
文章もうまいし、なかなかひきつけられるんだけど、私生活における子供や周囲への接し方があまりにも理不尽で、その理不尽さを正当化しようとする態度には辟易した。
私小説が訴えられ、敗訴した原因にはこの辺の人間性があるのかもしれん、とボンヤリ思ったよ。
やっぱり理不尽でめちゃくちゃでも多くの人に愛されるサイバラとは全く違う気がする。

柳美里のサイトは読んだらかなりどんよりするよ。私的には。
Posted by たもぎたけ at 2007年11月25日 11:40
ほおほお、青春ものに弱いんですな。

『魔球』って言葉、今では眉唾くさい感じに聞こえるけど、小説が20年くらい前のならもうちょっと現実にありえそうなものとして描かれているのかしらとか変なことが気になったり。

推理小説は、読者をだます?『仕掛けの面白さ』と、殺人を犯すにいたった『犯人の心理や背景が作品に与えるリアリティ』とが大事なのかな、と思うけど、
割と仕掛けの方ばかり気が行って後者はおざなりにされているような作品も多い気も…(そんなにたくさん読んでないので気のせいかもしれないけど;)
この作品は、どっちもよく描かれてるのかな、という印象を受けました。
Posted by すず音 at 2007年11月25日 16:35
>たもぎ

>私が原作者ならあんな月9には映像化の権利渡さないけどな〜。
いやー既に映画やドラマやなりまくってる事からしてあんまそういうとここだわりない人なんかもしれないね。

柳美里って読んだことないんだけど、なんとなく恐そうというイメージがあって手が出せない・・・(笑)
必要以上に被害者意識の強い人って苦手で、彼女が実際そうかどうかはわからないけど、日頃の言動とかからなんかそういうもんを感じてしまって。
サイバラはあんまそういうのがないからね。人に対して怒りまくっても決して卑屈な感じはないというか。


>すず音っち

つうても「ほら爽やかな青春ものですよ〜」て差し出されると素直に見られないめんどさくい面もあるのですが(笑)。
ここならまあ話の革新に触れてもいいかな。
「魔球」てのは、あくまで一変化球のことなんだけど、天才投手と平凡な投手にあたえられた野球の神様からの気まぐれプレゼントみたいなもの、という描かれ方で、それがよりこの物語を切なくさせてるんだよね。
>この作品は、どっちもよく描かれてるのかな、という印象を受けました。
前半は絡んでいく物語のおもしろさがあって、後半はそれがときほぐされていく快感と、人物への思いみたいなもんが描かれてて、まさにその通りの作品だと思います。
ただ、推理小説好きな人にしたら後半はちょっと物足りなかったりはするみたいなんですけどね。レトリックがいまいちというか。
私は謎解きより出てくる人間の描かれ方なんかの方に興味ある人なんで、そこらへんに対する不満はないけど。(まあ確かにちょっと無理矢理かなあという部分もあるけど)
Posted by シノブ at 2007年11月26日 06:56
こんちわ。
東野圭吾という名前に惹かれてのコメントです。

私、東野圭吾の大ファンなんですが、彼のことは小説家としてよりも技術者として尊敬しております。最初に読んだのが「秘密」で、技術者にこんな人間臭い小説書けるんだとというのが率直な感想で、感心してしまったと同時に一発でファンになりました。

それから東野を読み漁ったんですが、今の人間の心理の奥深くを追求しようとする作風も好きですが、昔のいわゆる無理のある設定の中で、悩みながらも推理小説と割り切って書いているような作品も個人的に好きです。

東野を読むときにいつも思うのですが、彼が小説家を書くときにおそらく悩んでいるんじゃないかと感じるのが「動機」の部分です。とにかく、何か人が事件を起こす場合、それを違和感なく読もうと思うと人が動くのに必要な根源となるなんらかのエネルギーが必要で、それが例えば殺人とかになるとよっぽどの動機がない限り事件自体が発生しないのでは?などと技術者っぽく考えているのではないかと想像するわけです。

原因と結果に、それなりの因果関係がないことには納得できないという技術者の頑固さを東野の小説に感じてしまうわけで、それが彼の好きな理由ですかね。あらためて考えてみると。

細かいディテールは覚えていませんが、「魔球」も読みました。東野の本は東野ファンを増やすために前の会社に置いてきたのですが、シノブさんのブログを読んで久しぶりに旧作を読みたくなったので、年末にでも取りににいくかなと思いました。

コメントでの長文失礼しました。
Posted by なおや at 2007年11月26日 10:19
>なおやさん

おー東野圭吾お好きだったのですね。しかも相当な。
>彼のことは小説家としてよりも技術者として尊敬しております。
そうなんですよね、この人ってエンジニアあがりなんですよね。
やはりその辺っていうのは作風に出るもんなんですな。
今やっているガリレオも物理化学のトリックを利用したもので、他の推理物とは一線画してますしね。うちの子供らはそれが面白くて見てるみたい。
理系頭なんだろうなあというのはなんとなく感じます。
つじつまの合わないところをニュアンスでごまかしたくないっていう。
「魔球」でも、(ネタばらしオーケーと判断して書きます)少年が殺人に至る動機のために事前に彼の性格をきちんと描いていて、その点の理不尽さは埋めています。
またその少年の性格が物語の悲劇性をも増してる。
推理小説というのは普段ほとんど読まないのですが、推理小説というのはそれが出来て当たり前かと思ってたんですが、そうでもないもんなんですかね。
Posted by シノブ at 2007年11月27日 07:15
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東野圭吾『魔球』
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Tracked: 2009-03-12 23:09